横浜市 鶴見区の花「サルビア」〜横浜18区花めぐり Vol.03〜

あなたのまちの花は、どんな花かご存知ですか??横浜18区には、それぞれ区の花や区の木が定められています。ふだん何気なく歩く道にも、もしかしたらそのまちにゆかりのある花々が咲いているかもしれません。

シリーズ第3回は鶴見区の花「サルビア」

このシリーズでは、まちの花である「区の花」を知り、鑑賞する・育てる・訪れるといった視点から、身近な花々に親しみ、新たなまちの楽しみ方を提供していきます。

Yoccoたちと一緒に、四季折々の花を楽しみましょう!

本シリーズで花の解説をしていただくのは、横浜市港北区在住、種苗会社の社員で、ご自宅でさまざまな植物を育てている園芸家でもある、新井裕之さんです。シリーズ第3回は鶴見区の花「サルビア」を紹介します。

どうして「サルビア」が選ばれた?

横浜市鶴見区の公式ホームページ「鶴見区のあらまし」から引用します。

鶴見区のシンボルマーク等 区民の花 サルビア(平成3年11月15日制定)

赤いイメージの花であり、工業の街鶴見の赤い炎やエネルギーをイメージし、さらに福祉のゆきとどいたあたたかい街をイメージする花であることから。

わかりやすいですね。炎の花。誰もが良く知っている、夏の花壇に欠かせない真っ赤な花が、サルビアです。


斜面を彩る一面の赤

鶴見区内でどこに咲いている?

未確認ながら、三ツ池公園などいくつかの公園。街角のちょっとした花壇やコンテナ(プランター)でも、サルビアは夏の花として使われているでしょう。個人のお庭にも、決して珍しくはない花です。ただし、一年草なので、毎年そこで咲いているとは限りません。多くは初夏、連休のころに苗を植えて、秋まで咲き続け、初冬にパンジーなどと植え替えられます。「鶴見区民文化センター サルビアホール」という施設がありますね。サルビアを観賞する施設、ではありませんが、区の花が施設名に使われているとうことです。

「サルビア」ってどんな花?

広い意味でサルビア、専門用語(学名)を使うと「サルビア属」は、とても大きなグループで、たくさんの種類がふくまれています。皆さんが良くご存知の赤いサルビア、鶴見区の花もおそらくは、学名「サルビア スプレンデンス」。和名、ヒゴロモソウ(緋衣草)。雅な和名で呼ばれることはめったになく、単に「サルビア」といえば主に「サルビア スプレンデンス」のことを示します。国体の競技会場でプランターに植えられた真っ赤なサルビアが飾られていることが多く、「国体の花」というイメージも定着しています。

一年草、だけど…。

一年草とは、種をまいて、半年以内に花が咲いて、それから概ね半年で枯れる、植物のこと。草花なら、栽培開始から終了までが1年以内となります。大別すると春まき一年草と秋まき一年草です。春まき一年草は熱帯地方原産であることが多く、夏から秋に元気に成長して花を咲かせ、初冬に寒さが訪れると、実を残して枯れてしまいます。「サルビア スプレンデンス」は春まき一年草の代表格。原産地はブラジルの熱帯地方です。

冬の寒さがない熱帯地方では、同じサルビアが、何年も年を越して枝分かれしながら大きな株に育ちます。根元の茎は木質化しています。本来は、低木あるいは灌木なのです。日本でも温室や、沖縄地方であれば、木になったサルビアを見ることができます。

灌木になったサルビア(シドニーにて筆者撮影)

赤だけではありません

スプレンデンス種だけでも、濃紫、薄紫、桃、オレンジ、これらの色および赤と白の複色、白。これだけのバラエティがあるのです。サルビア属の別種では、よく目にするのがブルーサルビア。学名「サルビア ファリナセア」です。遠目にはラベンダーにもみえる、スッキリとした形の花穂で、涼しげな水色が基本色で、白もあります。ブルーサルビアも一年草です。

涼し気なブルーサルビアも夏に似合う

日本のような温帯の気候で、冬の寒さに耐え、毎年花を咲かせる種類もあります。それらは総称として「宿根サルビア」とよばれています。一年草のサルビアと比べて背が高かったり、花の付き方がまばらだったり、野性味を帯びていることから、イングリッシュガーデンのブームとともに、自然風な花壇の材料として多く栽培されるようになりました。学名よりも英語の呼び名が定着しています。アメジストセージ、チェリーセージなど。〇〇セージ、とつく名が多いことには理由があります。

サクランボ色のチェリーセージ

実はセージもサルビア、そして日本にも

料理にハーブを愛好されている方なら、セージは定番中の定番。ハーブのセージ、実はサルビア属なのです。学名「サルビア オフィキナリス」、英語名「コモンセージ」、和名「ヤクヨウサルビア」。

英語のセージには、サルビア全般の意味が含まれています。日本語で広い意味の「サルビア」「セージ」に対応する呼び名は「アキギリ」。日本の里山に咲く「キバナアキギリ」という植物、これもサルビア属です。

日本原産のサルビア、キバナアキギリ

混乱しそうですね。言葉を整理しましょう。

1.鶴見区の花、夏花壇の一年草である「サルビア」は、1つの種を示す狭い意味であり、学名「サルビア スプレンデンス」、和名「ヒゴロモソウ」。

2.広い意味の「サルビア」は、学名の前半(=属)を示し、大きなグループであるサルビア属のこと。対応する英語が「セージ」、日本語は「アキギリ」。

3.狭い意味での「セージ」は、サルビア属の中の1種、ハーブの代表格。グループと区別するための呼び名は「コモンセージ」、学名「サルビア オフィキナリス」、和名「ヤクヨウサルビア」。

まだ、慣れないと混乱しますね・・・。鶴見区の花はあの真っ赤な「サルビア」だけど、他にもハーブのセージなどたくさんのサルビアの仲間がある、ということを知っておいてください。

「サルビア」を育ててみよう!

横浜近辺ではゴールデンウィークの頃から苗が販売されます。苗からの栽培は容易、そもそも花が咲いた苗がほとんどなので、植えた瞬間から綺麗です。長く咲かせるためには、植える際の土づくり、花がら(咲き終わった花)を摘むことと、追肥を与えることなど、一般的な草花の管理が必要です。

苗を購入したら

まず、栽培する場所は、日当たりが良いことが条件。日陰になる時間が長いほど、花が少なくなります。土は、水はけが良い(水やりや雨降りの時に水が溜まらない)ことと、水もちが良い(短時間で乾きすぎない)を両立させる必要があります。

コンテナ(プランターや植木鉢など、容器)栽培では、「草花用の土」として配合されている市販の培養土を用いるのが無難です。露地、お庭の花壇に植える場合は、堆肥や腐葉土など土をやわらかくする改良材と、元肥として長期間効き目のある草花用の肥料をよく混ぜておきます。いずれも園芸店、ホームセンターで購入することができます。初めて栽培する方は、苗や用土類を購入する際に、お店でコツを質問すると良いでしょう。

長く咲かせるには

サルビアは1本の花茎に、房状に花をつけています。子供の頃、サルビアの花から細長い部分を抜き出して、根元に付いている蜜を吸った記憶はありませんか。あの細長い部分が花弁(=花びら)で、それを包んでいる太くて短い筒が萼(がく)です。

2色咲き、この花では花弁が濃桃色で萼が薄い桃色

実は1つの花の寿命は短く、花弁はすぐ落ちてしまいます。同じ色をしている萼(がく)が、なかなか色あせないため、長期間咲き続けているように見えるのです。萼が色あせてきたら摘み取ります。1本の花茎の殆どが色あせたら、茎の元から切り取ります。すると、下にある葉の脇から新しい芽が伸びて、再び花を咲かせてくれます。放置しておくと実(種子)がついてしまうため、次の花が咲かずに枯れてしまうことも。

もうひとつのポイントは肥料を切らさないこと。植えてから1か月後に、固形や粒状の追肥を与えます。以後、栽培を終えるまで、月に1回は欠かさずに。肥料の種類は、「草花の追肥」に使えると表示があれば、市販のものでどれでも大丈夫です。

秋こそ、旬

ブラジルの熱帯地域原産ですから、成長には高温の方が適しています。ですが、なぜか、冷涼なはずの北国や高原で、夏、色鮮やかな真っ赤なサルビアを目にすることが多いのです。これは、日中と夜間の温度差によるもので、温度差があるほど、より鮮明に色素がつくられたためです。そのため、横浜のような温暖地でも、サルビアは真夏より秋の方が、鮮やかな緋色をみせてくれます。

寒さが訪れると成長が鈍くなり、最低気温が5℃を下回ると完全に枯れてしまいます。11月になったらパンジーなど、冬から春に咲く草花と入れ替えるようにします。

一年草のブルーサルビアも、ほぼ同じ栽培方法です。宿根サルビアでは種類ごとに開花時期や冬越しに必要な最低気温が異なります。販売される苗についているラベルの記載が参考になります。

宿根サルビアの1種、アメジストセージ。開花は主に秋、強い凍結をさければ冬を越せる

種まきも難しくはないけれど

サルビアの種子は大きめで、種まきも難しくはありません。ただし、発芽には高温を必要とします。適した地温は、20℃。横浜だと3月や4月にまいても、加温施設がないと発芽してくれません。暖かい室内なら発芽しますが、外に出すと寒さで弱りますし、ずっと室内では日照不足になります。ゴールデンウィークに販売されている苗はすべて、温室育ちなのです。

園芸ことわざ集にある「春の種まきは、八重桜が散ってから」がもっともよく当てはまる、サルビア。種をまいて失敗が少ないのは5月以降、むしろ6月になってからの方が更によく発芽します。種をまいてから最初の花が咲くまで、2カ月くらい。既に花が咲いている時期を、葉だけ見ていることになってしまいます。

とはいえ、種まきから最初の花を咲かせられた瞬間は、とても嬉しいもの。夏の後半から秋に咲くことで、前に述べたように、花の色が鮮やかになるメリットもあります。苗からの栽培で管理に慣れたら、次は種まきにチャレンジしてもよいでしょう。


参考にしたWebサイト

鶴見区のあらまし

https://www.city.yokohama.lg.jp/tsurumi/shokai/gaiyo/aramashi.html

鶴見区民文化センター サルビアホール

http://www.salvia-hall.jp/

県立三ツ池公園

https://www.kanagawaparks.com/mitsuike/

サルビア(一年性)の基本情報 みんなの趣味の園芸

https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-285

様々なサルビア 水戸市植物公園

http://www.mito-botanical-park.com/plant_description/salvia/species/


ご協力 新井 裕之

(あらい ひろゆき)

種苗会社社員、園芸家。10歳から園芸を趣味として始める。東京農大を卒業し横浜の大手種苗会社に勤務。自宅と貸農園で家庭園芸、家庭菜園を実践。花の名所巡りと写真撮影、生け花もたしなむ。最近は横浜市内を中心に、園芸ボランティア活動を広げている。好きな花はユリ。サルビアは小学生にして自分で種まきをして育てた。