横浜市 港北区の花は「梅(ウメ)」〜横浜18区花めぐり Vol.02〜

あなたのまちの花は、どんな花かご存知ですか??横浜18区には、それぞれ区の花や区の木が定められています。

ふだん何気なく歩く道にも、もしかしたらそのまちにゆかりのある花々が咲いているかもしれません。

このシリーズでは、まちの花である「区の花」を知り、鑑賞する・育てる・訪れるといった視点から、身近な花々に親しみ、新たなまちの楽しみ方を提供していきます。

Yoccoたちと一緒に、四季折々の花を楽しみましょう!

本シリーズで花の解説をしていただくのは、横浜市港北区在住、種苗会社の社員で、ご自宅でさまざまな植物を育てている園芸家でもある、新井裕之さんです。

シリーズ第2回は港北区の花「ウメ」を紹介

どうして「ウメ」が選ばれた?

横浜市港北区の公式ホームページ「区の木/区の花/港北の歌」によると、ウメが制定されたのは平成3年5月11日のようです。

区民・関係行政機関・観光協会より構成される「港北区の木・花選定委員会」が、区民を対象に一般公募を実施。協議の結果、区の花にウメが制定されました。ウメは圧倒的に人気だったとのことで、理由は、花も実も楽しめることや区内各地で広く植えられていること、特に大倉山の梅林は区民の誇りとなっていることから支持を得たものとされています。

圧倒的人気のワケは大倉山

一般公募では区の木、区の花とも、ウメが1位を独占。区の花にウメを使ったため、区の木は人気投票2位のハナミズキになりました。どちらも、花木です。圧倒的人気の理由は、区民のみならず、首都圏内のウメ名所として親しまれている、大倉山梅林の存在によるところが大きいです。

大倉山梅林の歴史は古く、昭和6年(1931)に開園しています。当初は1,000本を超える一大梅林があったとされます。第二次大戦中に荒廃しつつも、戦後の復興とともに、数百本のウメが咲き誇る観光地として賑わいました。昭和の末、東急電鉄から横浜市に売却され、再整備のうえ平成元年(1989)に大倉山公園の一部として開園しました。

余談ですが、2歳半から港北区民である筆者は、小学生の頃によく家族と大倉山公園をウメの季節に訪れました。昭和50年代前半の当時は、遠方の観光地に比べて集客力が落ちていた時代でしたので、ウメの木も古くなり、寂れた様相だった印象があります。記憶をたどると、大観光地、というイメージではありませんでした。

大倉山観梅会

それから時を経て平成の世に再生したのですね。現在は、32種類、約200本の梅が植えられて、管理も行き届いています。シーズンには毎年、「大倉山観梅会」が賑やかに開催されています。一番本数が多いのは大きな実を付ける「白加賀」です。「緑萼梅(りょくがくばい)」、「思いのまま」などの珍しい品種もるので、花と木に付けられた名札を見比べるのも楽しみです。


地場産の梅酒もあります

平成3年(1991)には、梅林開園60周年記念事業として、大倉山梅林の「白加賀」の実を手もぎで収穫して漬け込んだ「大倉山梅酒 梅の薫」の販売が開始されました。港北観光協会が発案した同梅酒は、ヨコハマ・グッズ「横濱001」(開港以来続く”先進の息吹”と”個性あるものづくりの意欲”を大切にし、個性ある横浜発のオンリーワン商品を目指す地域ブランド)に、1995年から現在まで連続して認定され続けています。(港北観光協会サイトより参照)

「ウメ」ってどんな花?

奈良時代、万葉集ではサクラよりも多く歌われ(ただし、一番はハギという説もあります)、日本人が古くから愛した花、日本を代表する花のひとつです。サクラと異なり、日本には自生がなく、中国から奈良時代の少し前に渡来したと考えられています。

「実ウメ」と「花ウメ」

大別すると、大きな実をつけて梅干しや梅酒などに利用する「実ウメ」と、実は小さく食用に向かないものの美しい花を競う「花ウメ」があります。「実ウメ」は多くが「白加賀」という品種のように白い一重の花です。それでも開花すれば観賞価値があります。

実ウメの代表格「白加賀」

各地の梅園は、その来歴によって特色があります。「実ウメ」が中心であれば一面の白花となり、「花ウメ」が中心であれば濃いピンク、薄いピンク、白が混ざり合って華やかな景色となります。

長期間楽しめるウメの魅力

「花ウメ」は現在、200ないし300を超える品種があるとされます。極早咲きの「冬至」は関東で1月中旬から自然に開花し、少しの促成栽培でお正月に飾ることもできます。濃い桃色の「寒紅梅」「八重寒紅」など早咲きの品種がこれに続きます。

2月大雪に埋もれる「八重寒紅」

2月までは気温が低いため、ウメは蕾を少しずつ膨らませ、開いた花は長もちしてくれます。メジロやヒヨドリが蜜を狙いに来る時期でもあります。「梅と鶯」として描かれている絵は、よく見るとメジロであることが多いです。

2月の後半から3月にかけて、梅林は花盛りとなります。ひときわ目立つ濃桃色の「紅千鳥」、大輪で淡桃色の「見驚(けんぎょう)」、1本の木に白と桃の花が咲き分ける「思いのまま」など、美しい品種が揃います。白や淡い桃色の「豊後梅」が咲き始めると、ウメの季節も終盤、モモとサクラにバトンタッチです。

ショッキングピンクが印象的な「紅千鳥」

実がなる季節、それは梅雨

「実ウメ」の場合は、4月、5月と青い実が徐々に大きくなり、梅酒に向く青梅として収穫するには6月の初め、梅干しや梅シロップ、ジャムに向く黄色く熟し始めた実の収穫は、ちょうど梅雨が始まるころになります。よく知られていることですが、生で加工していない青梅には有毒成分が含まれます。注意してください。

梅酒、梅干し作りは楽しい


「ウメ」を育ててみよう!


ウメは、家庭で育てる花木としては昔から一般的で、和風建築が主流だった時代にはどこの家にもありました。狭い庭や、若干日照不足の場所でも育てることができ、丈夫で寿命が長く、庭木花木としては育てやすい部類でしょう。庭に植えて育てるのと、盆栽のような鉢植えで育てる場合では、年間の管理が若干異なります。

入手は冬から早春

ウメは落葉樹。落葉樹は一般に、植え替えの季節は葉を落としている晩秋から早春までです。梅の苗木が出回るのも、以前は開花時期を含む落葉期に限られていました。最近では鉢植えで出荷されることが多くなり、大型の園芸店では年間を通して入手可能です。それでも、盆栽は年末から立春までが多く店頭に並び、庭植えに向く大きな苗もその時期が一番多いです。花を確かめることもできるので、購入時期としては1~2月がおすすめです。

適した場所

庭植えでは、日当たりが良い場所の方が、成長が良く、開花も多くなります。半日くらいの日照、あるいは建物に沿った明るい反射光がある日陰などでも、やや花が少なくなるものの、育てることができます。盆栽や鉢植えにした場合も、最低半日の日照はほしいです。

ウメは剪定が必要

「サクラ切る馬鹿、ウメ切らぬ馬鹿」という言葉に、それぞれの性質が示されています。サクラ、特にソメイヨシノの場合、放置しておいても自然に形が整った状態で大木となり、一面に花を咲かせます。サクラの太い枝を切ると切り口から腐敗してしまうことが多いですが、その点は癒合材を塗るなど適切な処理をすれば大丈夫。サクラがあまり個人の庭に用いられないのは、剪定せず大木にした方が自然に美しくなるということが主な理由です。

ウメの場合、放置しておくと外側の枝は伸び放題となり、内側は密集した枝が日照不足で枯れて、なかなか整った状態になりません。広い場所に単独で植えられているのであれば、年月を経て遠目にも見事な大木になりますが、家庭では維持できなくなります。そうなるとやはり、年に2~3回の剪定が欠かせません。まずは花が咲いて、新芽が伸び始めた頃に行う「芽かき」。将来、邪魔な枝になりそうな新芽を取り除いて整理していきます。しかし、これにはこまめな作業とテクニックを必要としますので、省略する場合が多いです。

「夏剪定」と「冬剪定」

「芽かき」を省略するなら、「夏剪定」をしっかり行います。6月の後半から7月の初めにかけて、伸びすぎた枝を切り詰めるか、元から切って整理していきます。そして、葉が落ちた晩秋から初冬に行う「冬剪定」。「夏剪定」後に伸びた細い枝には花が咲きませんので、その部分を切り落とし、飛び出した枝などがあれば短くして樹姿を整え、開花を待つことになります。

盆栽と鉢植え

梅の盆栽は、松と並んで盆栽の代表格ですね。盆栽や鉢植えでは、水やりや肥料のことも含め、より細かな年間管理が必要となります。ところで、盆栽と鉢植えの違いはお判りでしょうか?盆栽は鉢植えの一形態になります。鉢植えは、文字通り植木鉢などの栽培容器に植えて育てることです。大きめの鉢を用いて、木もそれなりに大きく育て、庭植えに準じた管理や咲かせ方をしていれば、それは「ウメの鉢植え」になります。鉢ではその中にしか根が伸びていないので、日々の水やりと、1~3年に1回の植え替えが必要になります。

樹齢50年近い「冬至」の盆栽

盆栽は、木の大きさに対してギリギリの大きさ、しかも、浅い鉢に植えます。ただウメの花を咲かせるだけではありません。必要以上に大きくならないよう成長を抑えつつ、枝ぶりを整え、土の表面に苔を貼るなどして、ウメの木がある景色をコンパクトに再現します。鉢が浅くて小さい分、水やりがこまめに必要な他、枝ぶりを整えながら適度に成長させて花を咲かせるため、ウメに限らずですが良い盆栽を長年維持するのは、なかなか大変です。

梅盆栽を手に入れたら

お正月に開花しているウメの盆栽を購入、あるいは贈られることもあるでしょう。ここでは最低限の管理について述べておきます。花が終わったら、1本の枝に芽を2~3個、残して切り取ります。明らかに邪魔な枝は元から切ります。植え替えは芽が伸びる前の3月初め。若い木では1~2年に1回、太く育っている木では3年に1回くらいです。芽が出たら、混み過ぎているところや、交差するなどバランスが悪くなりそうなところを注意して、余分な芽を取り除きます。この時期から梅雨明けまでは肥料も必要です。

6月、それぞれの枝が適切な長さに伸びたら、先端を切り取ります。その後、新しい芽がでたら、その部分だけを早めに切り取って、先に伸びて葉が硬くなった枝だけを残します。真夏は肥料を与えず、乾きすぎないよう注意します。その頃にはもう花芽(小さな蕾)ができてきます。寒くなり葉が落ちた頃には、花芽がハッキリしていますから、花咲かない弱い枝などを切り取って整え、開花を待てばOKです。

参考にしたWebサイト

港北区 区の木/区の花/港北の歌

https://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/shokai/symbol/kunoki.html

大倉山観梅会

https://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/shokai/bunkakanko/kanbaikai/

大倉山梅酒「梅の薫」 港北観光協会

http://yokohama-kouhokukanko.net/buy.html

なんでも梅学

https://minabe.net/gaku/index.html


ご協力 新井 裕之

(あらい ひろゆき)

種苗会社社員、園芸家。10歳から園芸を趣味として始める。東京農大を卒業し横浜の大手種苗会社に勤務。自宅と貸農園で家庭園芸、家庭菜園を実践。花の名所巡りと写真撮影、生け花もたしなむ。最近は横浜市内を中心に、園芸ボランティア活動を広げている。好きな花はユリ。