横浜市磯子区の花「コスモス」〜横浜18区花めぐり Vol.04〜

あなたのまちの花は、どんな花かご存知ですか??横浜18区には、それぞれ区の花や区の木が定められています。

ふだん何気なく歩く道にも、もしかしたらそのまちにゆかりのある花々が咲いているかもしれません。

このシリーズでは、まちの花である「区の花」を知り、鑑賞する・育てる・訪れるといった視点から、身近な花々に親しみ、新たなまちの楽しみ方を提供していきます。

Yoccoたちと一緒に、四季折々の花を楽しみましょう!

第4回は「コスモス」磯子区

本シリーズで花の解説をしていただくのは、横浜市港北区在住、種苗会社の社員で、ご自宅でさまざまな植物を育てている園芸家でもある、新井裕之さんです。シリーズ第4回は磯子区の花「コスモス」を紹介します。

どうして「コスモス」が選ばれた?

公式ホームページ「磯子区のシンボルマーク、区の木・区の花デザインマーク」から引用します。

区の木・区の花デザインマーク (平成9年10月制定)

区政70周年を記念して、区の花「コスモス」と区の木「梅」のデザインマークを募集したところ、 区民の皆さんから111通の応募をいただきました。多数のすばらしい作品の中から、人の融和・自然との調和をイメージした作品を採用しました。採用作品には専門家によって文字を加えるなどの補正をし、 デザインマークにしました。

また、区政70周年記念式典で、デザインマークの発表と優秀作品の表彰をしました。コスモスはやさしい感じの花なので、2つのコスモスがやさしげに語りあっているようなイメージで描いています。

ということで、デザインマークの由来はわかりました。ところが、コスモスが区の花に制定された経緯は記載されていません。西区のスイセン同様、詳細を知ることはできませんでした。

「秋桜」として親しまれているやさしい色合い

磯子区内でどこに咲いている?

コスモスの見どころ情報は、磯子区のホームページに記載されていました!一番大きな名所は区の南端にある「氷取沢の農業専用地区」。他にも磯子区役所や区内の各駅前でも見ることができ、小規模ながら例年コスモスが秋の街に彩りを添えている様子がうかがえます。

「コスモス」ってどんな花?

「秋桜」と書いてコスモスと読みます。和の風情があり、日本で古代から永く親しまれてきた花。と、思われがちです。と、こ、ろ、が。違うのです。

メキシコ生まれ、日本デビューは明治時代!

コスモスが日本に初めて渡来したとされているのはなんと、明治初期。園芸やお花見が盛んだった江戸時代、それ以前にも、「秋桜」は存在してなかったのです。万葉集や古今和歌集に「秋桜」が何首詠まれたか。残念ながらゼロです。

秋の風物詩、一面のコスモス畑

あまり改良されていなくても、一重の花は優しい色合いで美しいです。また、性質や栽培方法が日本の気候や土壌に合っていた。そのために、コスモスは短期間で日本古来の花と思われる存在感を持つに至ったと推察されます。

コスモスの原産地はメキシコです。現地では、今でも道端に自然にコスモスが咲いているとききました。日本にあるのとよく似た、桃色、時に赤や白がある、一重の花です。


コスモスには黄色もあります

普通のコスモスは赤、桃、白のいずれか、それぞれ単色の花です。赤や桃に濃淡があるものや、1つの花に複数の色が混ざるものもあります。また、花弁が重なり合った八重の花も。長い間、コスモスはずっとこの3色の範囲内にありました。

しかし、今では黄色のコスモスもあります。

昭和の終わりころ、玉川大学の育種学研究室で、花びらの一部に黄色みを帯びていたコスモスを元にして、改良されました。薄いクリーム色で、今ではコスモスの名所で多く用いられています。また、そこから改良されたサーモンオレンジ色もあります。

クリーム色とサーモンオレンジ色のコスモス

少しだけややこしい話。普通のコスモスを改良した黄色い花。それとはまた別に、キバナコスモスという花があります。こちらもメキシコ原産で大正時代に渡来しました。わかりやすい特徴は、コスモスと比べると、切れこんでいる葉の幅がやや太いことです。コスモスと同じかそれ以上に丈夫で育てやすい一年草。草丈が低いものは遠目だとマリーゴールドと間違えやすく、夏から秋の花壇では定番となっています。

キバナコスモスは元々がオレンジ色と黄色でした。改良によって生まれたコスモスの黄色とは異なる、ハッキリしたオレンジ、黄色です。1960年代、日本人の個人育種家(品種改良を行う人のこと)によって、赤いキバナコスモスが発表され、世界から称賛を受けました。アメリカでは最も権威がある花の新品種コンテスト(AAS)で金賞を受賞しています。キバナコスモスの赤も、コスモスの赤とは異なる、オレンジ系統を濃くした、ハッキリした色です。

ハッキリした色で切れこんだ葉が太めのキバナコスモス


驚きのチョコレート色のコスモス!

コスモス、キバナコスモスは、いずれもコスモス属。ただし、2つの種で交配(花粉を掛け合わせること)した雑種はできません。遠い親戚のような関係です。コスモス属で最近、日本の園芸や切り花でよく目にするようになった、独特の花があります。チョコレートのような赤みを帯びた黒。顔を近づけてみればなんと、チョコレートによく似た香り!!その名もズバリの、チョコレートコスモス。

こちらも同じくメキシコ原産。しかし自生はほぼ絶滅しているようです。一年草ではなくやや寒さに強い多年草(冬に茎葉が枯れて根が残るので宿根草ともいいます)のため、性質が弱く、栽培は難しいとされていました。

しかし、日本人の個人育種家により、キバナコスモスとの間で雑種が作り出され、より栽培しやすい品種が誕生しました。それにより、強い性質と、チョコレートの色、香りを併せ持ち、切り花や鉢植えで流通するようになりました。今ではフラワーアレンジメントでもよく使われる花になっています。

黒(正確には黒に近い赤や紫)い花は少なくないけれど、なぜチョコレートの香りまで似ているのか。生き物は本当に不思議に満ちていますね。

色のみならず香までチョコレート

「コスモス」を育ててみよう!

初めて草花を種まきから栽培する方に、ぜひともおすすめしたい植物でもある、コスモス、キバナコスモス。

種まきの時期は

コスモスは春まき一年草。原産地がメキシコの温帯地方なので、熱帯地方原産の草花よりも、低い気温を好みます。横浜で春まきするなら、4月から。最近は暖冬傾向なので3月でも、暖かい日が続いていたら大丈夫。種が大きくてまきやすく、発芽までも比較的早いですし、双葉の形が種の形とちゃんと関係していて面白いですよ。

普通のコスモスは短日植物といって、昼の時間が短くなる、秋に花を咲かせます。改良されていないコスモスではこの性質が強いため、どうしても開花は10月からになってしまいます。3~4月に種まきすると、夏の間はドンドン草丈が伸びて、大人の背をも超えてしまい、風が吹くと倒れてそこからまた立ち上がり・・・。コスモス林のようになってしまいます。

家庭で短い草丈で咲かせる方法は、7月に種をまくこと。あるいは、改良されて短日性が弱まり、夏から開花する品種を選ぶこと。種が販売されているコスモスの多くは夏咲き性があります。特にキバナコスモスは日長の影響を受けにくいため、春にまいても自然と草丈低く開花する品種が多いようです。

このくらいの草丈だと家庭では扱いやすい

栽培する場所は、日当たりが良いことが条件。日陰になる時間が長いほど、花が少なくなります。土は、水はけが良い(水やりや雨降りの時に水が溜まらない)ことと、水もちが良い(短時間で乾きすぎない)を両立させる必要があります。とはいえ、気難しい他の園芸植物と比較すれとコスモスは「土を選ばない」といえるでしょう。むしろ肥料分は少なめにしたほうが良いですし、荒地のような土地で雑草に負けず育つこともあります。

肥料が多過ぎると、よく育ちますが、茎葉白く粉を吹いたようになってしまう、うどんこ病が発生しやすいようです。うどんこ病はコスモスの大敵です。キバナコスモスの方が、うどんこ病にもかかりにくく、総合的にも育てやすい感じがしています。

より栽培容易なキバナコスモス

いつまで、種まきできる

7月に種まきすると、そこからだんだん日が短くなるため、春まきに比べて早く、草丈低く咲く。これが、短日性である普通のコスモスの場合の基本です。梅雨が明けて暑い夏でも、芽が出るまで日陰において乾かさないようにすれば、大丈夫。では、もっと遅くまくとどうなるのでしょう。

筆者が神奈川県内で試した結果、8月中旬、旧盆前までなら、10月にちゃんと咲いて、草丈も程よく伸び、茎葉が茂り、コスモスらしくなりました。それよりも遅くなると、大きく成長しないまま、少しだけ花が咲いて、冬が来て終わってしまうようです。

しかし、園芸は自由です。大きく成長しなくても、花が咲いたら嬉しい。という考え方もあります。また、温暖化で冬の訪れが遅くなってきています。横浜だと9月に種まきして、鉢植えで狭い間隔のまま育てると、ミニサイズのコスモス畑ができることが、チョコレートコスモスの改良で有名な育種家から提案されていました。今年は筆者も試してみようと思っています。

その限界は9月中旬なのか、末なのか、10月でも間に合うのか。個人的に興味は尽きません。


参考にしたWebサイト

磯子区のシンボルマーク、区の木・区の花デザインマークhttps://www.city.yokohama.lg.jp/isogo/shokai/symbol/sinboru.html

磯子区花の見どころ-コスモス-https://www.city.yokohama.lg.jp/isogo/shokai/midokoro/hanamidokoro/cosmos.html

見どころ紹介 氷取沢の農業専用地区

https://www.city.yokohama.lg.jp/isogo/shokai/midokoro/isogomidokoro/hitorizawanousen.html

磯子区Web写真館(2012年度公開-7)区役所のコスモスが満開です!

https://www.city.yokohama.lg.jp/isogo/shokai/web-picture/2013izen/2012/2012-7.html

磯子区Web写真館(2011年度公開-4)氷取沢のコスモスが満開です!

https://www.city.yokohama.lg.jp/isogo/shokai/web-picture/2013izen/2011/2011-4.html

コスモスの基本情報 みんなの趣味の園芸

https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-325


ご協力 新井 裕之

(あらい ひろゆき)

種苗会社社員、園芸家。10歳から園芸を趣味として始める。東京農大を卒業し横浜の大手種苗会社に勤務。自宅と貸農園で家庭園芸、家庭菜園を実践。花の名所巡りと写真撮影、生け花もたしなむ。最近は横浜市内を中心に、園芸ボランティア活動を広げている。好きな花はユリ。幼少期、近所の公園に毎年こぼれ種から生えていたコスモスが強く印象に残っている。